
電子ピアノでもうまくなれる?電子ピアノを6年間使用したピアノ講師が解説!

電子ピアノでもうまくなれる?電子ピアノを6年間使用したピアノ講師が解説!
更新日:2025年3月4日
はじめに:電子ピアノでの上達について

こんにちは、かなくぼピアノ教室の金久保です!
かつて自宅では6年間電子ピアノを使用していた経験から、今日は「電子ピアノでも本当にうまくなれるのか?」という疑問について詳しくお話ししたいと思います。
現在、生徒さんのご家庭では電子ピアノが主流になっています。私の教室の生徒さんでも半分くらいは電子ピアノを普段遣いしている方がいらっしゃいます。
全国楽器協会による2017年度の調査では、アコースティックピアノ(グランドおよびアップライト)の国内向け販売台数が13,080台であるのに対して、電子ピアノは200,600台と実に15倍以上の差があります。
特にコロナ禍では「巣ごもり需要」で電子ピアノの普及がさらに広がりました。
このような状況の中、生徒さんから「電子ピアノでも上手になれますか?」「生ピアノに比べて上達が遅れませんか?」という質問をよく受けます。
結論からお伝えすると、電子ピアノでも十分上達することができますが、いくつか知っておくべきポイントがあります。今回は私自身の経験と、現場での指導経験から、電子ピアノでの上達について詳しく解説していきます。
電子ピアノと生ピアノの基本的な違い
まずは電子ピアノと生ピアノ(アコースティックピアノ)の違いを理解しておきましょう。基本的な違いは主に2つあります。
1. 音が出る仕組みの違い
生ピアノは鍵盤を押すとハンマーが弦を叩き、その振動で音が出ます。ピアノ全体が共鳴することで豊かな響きが生まれます。一方、電子ピアノは鍵盤を押すとセンサーが反応し、録音された音源がスピーカーから出力される仕組みです。
この違いは単純なように見えますが、実は演奏体験に大きな違いをもたらします。生ピアノでは弾き手のタッチによって音色が変わりますが、電子ピアノでは同じ強さで弾けば基本的に同じ音が出ます。これは「電子ピアノだと表現が単調になる」と言われる理由の一つです。
しかし、近年の高性能な電子ピアノでは、タッチの差による音色の変化をかなり精密に再現できるようになっています。もちろん生ピアノの繊細さには及びませんが、練習用としては十分な性能を持っています。
2. 鍵盤のタッチと弾き心地の違い
生ピアノはハンマーアクションと呼ばれる複雑な機構によって、鍵盤を押したときの抵抗感や反発力が生まれます。
一方、電子ピアノはこのアクションを模倣していますが、機種によってタッチ感は大きく異なります。
安価な電子ピアノの鍵盤はプラスチック製で軽めのタッチが多く、これが「電子ピアノでは指が鍛えられない」と言われる所以です。
しかし、中〜高級機種では木製鍵盤を採用し、生ピアノに近いタッチ感を実現しているものも増えています。
電子ピアノでは本当に上達するのか?
初心者〜中級者の場合
結論から言えば、初心者から中級者レベル(バイエル終了から入試ツェルニー30番程度)までであれば、電子ピアノでも十分上達します。この段階で重要なのは、正しい姿勢や指の形、音符の読み方、リズム感など基本的な技術であり、これらは電子ピアノでも十分に身につけることができます。
私の教室では、電子ピアノのみで練習している生徒さんも着実に成長しています。
特に初心者にとっては、電子ピアノの持つ長所(音量調節、ヘッドホン使用可能、録音機能など)が練習の助けになることも多いようです。
上級者の場合
一方、上級者(ショパンのエチュードやリストの作品に取り組むレベル)になると、電子ピアノだけでの練習にはいくつかの限界が見えてきます。高度な表現力やニュアンスを要する曲では、生ピアノならではの繊細なタッチコントロールが必要になるためです。
特に問題になるのは以下の点です。
- 細かなタッチによる音色の変化が生ピアノほど繊細でない
- 連打音やトリルなどの速いパッセージでの反応の違い
- ペダルの微妙なニュアンスが再現しにくい
- 弦の共鳴による豊かな響きの違い
これらの理由から、例えばコンクールで上位入賞を目指す生徒さんや、より高度な技術を習得することを目指す生徒さんには、可能な限り生ピアノでの練習時間を確保することをお勧めしています。
電子ピアノを最大限活用するための5つのコツ
電子ピアノでも効果的に上達するためには、いくつかの工夫が必要です。私自身の経験と生徒さんの成功例から、特に効果的だった5つのポイントをご紹介します。
1. 適切な電子ピアノの選び方
電子ピアノを選ぶ際は、鍵盤の質とタッチ感を最優先すべきです。特に重要なのは以下の点です。
- 可能であれば木製鍵盤のモデルを選ぶ(プラスチック製は鍵盤が軽い傾向がある)
- ハンマーアクションは、生ピアノに近いタッチ感のものを選ぶ
- 同時発音数が多いモデルを選ぶ(特にペダルを使う曲では重要)
- 可能であれば店頭で試弾し、生ピアノと比較してみる
私の生徒さんのご家庭では、楽器店の販売員やピアノの構造に詳しい調律師からアドバイスを受けて電子ピアノを選ばれる方も多く、適切な楽器選びが上達に大きく影響しています。
2. 適切な音量設定で練習する
電子ピアノの大きな特徴は音量調節ができることですが、これが逆に落とし穴になることもあります。
あまりに小さな音量で練習していると、生ピアノでのタッチ感覚とのギャップが生じてしまいます。
理想的には、アコースティックピアノと同等の音量で練習することをお勧めします。特に表現力や強弱の練習をする際は、小さすぎる音量設定では自分の演奏が上手に聞こえがちなので注意が必要です。
私自身も、以前は音量を小さめにして練習していましたが、本番でグランドピアノを弾いた際に、思ったように音が出せないという経験をしたことがあります。
日頃から生ピアノの音色にも親しみ、比較検討をしながら調整を行う必要があるといえるでしょう。
3. ヘッドホンの使用法を工夫する
ヘッドホンは周囲に迷惑をかけずに練習できる電子ピアノの大きなメリットですが、常にヘッドホンで練習していると、適切なタッチ感覚が身につきにくくなる場合があります。
ヘッドホンで聴くと、小さなタッチでも耳元で大きく響くため、実際の生ピアノでは力不足になることがあるのです。私はヘッドホン使用時にも以下の点に注意するよう指導しています。
- 定期的にヘッドホンを外して練習する時間も作る
- ヘッドホン使用時でも適切な音量設定を心がける
- 質の良い電子楽器用ヘッドホンを使用する
環境的な制約で常にヘッドホンが必要な場合でも、週に1回程度はヘッドホンなしで練習する時間を作れると理想的です。
また、質の良いヘッドホンを使うことも有効です。良いヘッドホンを使うと耳への負担も軽減されるので、頻繁に練習される方はぜひ購入を検討してみてください。
下記におすすめのヘッドホンを紹介しておきます。
4. 生ピアノに触れる機会を定期的に作る
電子ピアノメインの環境でも、定期的に生ピアノに触れる機会を作ることが重要です。
例えば、下記のようなアイディアがあります。
- グランドピアノのあるスタジオをレンタルする
- グランドピアノが弾ける弾き合い会に参加する
生ピアノの感触や響きを定期的に経験することで、電子ピアノでの練習をより効果的なものにすることができます。
5. 電子ピアノならではの機能を活用する
電子ピアノには生ピアノにはない様々な機能があります。これらを上手に活用することで、練習効率を高めることができます。
- 録音機能:自分の演奏を客観的に聴いて問題点を発見
- メトロノーム機能:リズムトレーニングに活用
- キータッチ調整機能:様々なタッチ感で練習し、適応力を高める
こうした機能は、生ピアノでは使うことが出来ません。
うまく活用すれば、自分では気づかない癖や、音のバランスの問題を発見するのに役立ちます。
電子ピアノを使用している生徒さんでも、こうした機能を巧みに使い、日々上達を重ねている方は多く見受けられます。
電子ピアノと生ピアノの効果的な使い分け
電子ピアノと生ピアノ、それぞれに長所と短所があります。理想的なのは、両方の楽器の特性を理解し、状況に応じて効果的に使い分けることです。
- 基礎練習や譜読み:特に初心者の段階では、音量調節ができる電子ピアノでじっくり練習できるメリットは大きい
- 夜間や早朝の練習:ヘッドホン使用で時間を気にせず練習できる
- テクニカルな練習:指のトレーニングや速いパッセージの練習など
- 録音して客観的に聴く練習:自分の演奏を冷静に分析するには録音機能が便利
- 音色やニュアンスの表現練習:特に中級以上では重要になる
- ペダルワークの練習:ハーフペダルなど繊細なペダル技術
- ダイナミクス(強弱)の表現:幅広い強弱の表現を身につける
- 本番前の最終調整:発表会やコンクール前の仕上げ練習
段階的な楽器の使い分け
レベルや目標に応じた楽器の使い分けを提案します。
初心者〜初級者(バイエル〜ブルグミュラー程度):
この段階では電子ピアノでも十分に上達できます。基本的な技術や音楽の楽しさを身につけることが重要です。電子ピアノなら音量を気にせず、思い切り練習できるメリットがあります。ただし、月に1回程度は生ピアノに触れる機会があるとよいでしょう。
中級者(ソナチネ〜インベンション程度):
この段階では、電子ピアノをメインにしつつも、週に1回程度は生ピアノでの練習時間を確保できると理想的です。特に表現力や音色の変化を意識する曲に取り組む際は、生ピアノでの練習が効果的です。電子ピアノでは、生ピアノと同等の音量設定で練習することを心がけましょう。
上級者(ショパンのワルツやエチュード程度以上):
この段階では、できるだけ生ピアノでの練習時間を増やすことをお勧めします。特に発表会やコンクールの前は、生ピアノでの練習が必須です。電子ピアノは、テクニカルな練習や夜間の練習、録音して聴くための補助的な役割として活用するのが効果的です。環境的に難しい場合は、ピアノスタジオやレンタルピアノなどの選択肢も検討すると良いでしょう。
電子ピアノでの上達:電子ピアノとともに暮らした6年間の経験から
私自身、アパート住まいの関係で就職時に電子ピアノを購入し、退職しピアノ講師として働き始めるまでは電子ピアノをメインに使用してきました。
期間にしておよそ6年間です。
最初は生ピアノとの違いに戸惑いましたが、いくつかの工夫を重ねることで、十分に技術を維持・向上させることができています。
ここでは、私自身の経験から特に効果的だった実践方法をご紹介します。
自宅での実践:6年間で学んだこと
私が特に効果的だと感じた実践方法は以下の通りです。
1. 電子ピアノと生ピアノの違いを常に意識する
電子ピアノと生ピアノの違いを知った上で練習することで、自然とその差を埋める演奏ができるようになります。特に以下の点を意識しています。
- 生ピアノよりも声部間の音量バランスをはっきりつける練習を心がける
- 想像以上にダイナミックレンジ(強弱の幅)を広く取る練習をする
- 電子ピアノでは表現しにくいニュアンスを、頭の中で想像しながら弾く
2. 定期的な「生ピアノDay」の設定
月に2〜3回は必ず生ピアノで練習する日を設け、電子ピアノでの練習の成果を確認します。このときに、電子ピアノでは気づかなかった問題点(特に音色のコントロールやペダリング)を発見することが多々あります。
3. 録音を活用した客観的な練習
電子ピアノの録音機能を活用し、定期的に自分の演奏を録音して聴く習慣をつけていました。特に自分が意図した表現が実際に出ているかを客観的に確認することで、電子ピアノ特有の自分では良く聞こえているが実際は違うという錯覚を防ぐことができます。
4. ヘッドホンと通常音量練習のバランス
生活環境上、ヘッドホンを使用することも多かったですが、可能なタイミングで適切な音量で練習するようにしていました。これにより、実際のピアノを弾く感覚を保つことができていたと思います。
生徒さんへの指導:電子ピアノを活かす方法
電子ピアノを使用している生徒さんには、以下のようなアドバイスをしています。
1. 生徒さんのピアノの機種を把握する
生徒さんがどのような電子ピアノを使用しているかを確認し、その特性を理解した上で適切なアドバイスをします。
2. レベルに応じた適切な楽器活用法を指導
初心者の段階では電子ピアノのメリット(録音機能、音量調節)を最大限に活かす方法を教え、レベルが上がるにつれて生ピアノでの練習の重要性を段階的に伝えていきます。
3. 電子ピアノならではの練習法の提案
電子ピアノの機能を活かした効果的な練習法を提案しています。
- 録音した演奏を一緒に聴いて分析する
- メトロノーム機能を活用したリズム練習
- 様々なキータッチ設定で練習し、適応力を高める
これらの工夫により、電子ピアノメインの生徒さんでも、発表会やコンクールで素晴らしい演奏ができるようサポートしています。
電子ピアノと生ピアノの上手な選択と将来展望
電子ピアノと生ピアノ、どちらが良いかは一概には言えません。重要なのは、目的や環境に合わせて適切な選択をすることです。
楽器選びのための3つの視点
1. 目標や目的に合わせた選択
ピアノを習う目的によって、最適な楽器は異なります。
- 趣味として音楽を楽しみたい場合 → 電子ピアノでも十分
- コンクールや発表会で演奏したい場合 → できれば生ピアノ、または高性能な電子ピアノと生ピアノの併用
- 音楽大学や専門家を目指す場合 → 基本的には生ピアノが必須
2. 生活環境を考慮する
住環境や生活スタイルも重要な要素です。
- マンションやアパート暮らし → 防音対策ができなければ電子ピアノが現実的
- 小さなお子さんがいる家庭 → 夜間練習の必要性から電子ピアノの方が便利な場合も
- 引っ越しが多い方 → 電子ピアノの方が運搬や設置が容易
3. 予算と長期的視点
初期費用だけでなく、長期的な視点も大切です。
- 電子ピアノは10年程度で買い替えが必要になる場合が多い
- 生ピアノは初期費用は高いが、適切なメンテナンスで何十年も使用可能
- 中古の生ピアノは、状態によっては高性能な電子ピアノより安価な場合も
将来を見据えたステップアップの提案
予算や環境の制約から電子ピアノで始める場合でも、将来的なステップアップを視野に入れておくと良いでしょう。
1. 電子ピアノからスタートし、段階的にグレードアップ
最初は予算に合わせた電子ピアノからスタートし、ピアノを続ける意思が固まったら、より高性能な電子ピアノや生ピアノへのグレードアップを検討する方法です。特に子どもの場合、長く続けるかどうか様子を見たい保護者の方には、この方法がおすすめです。
2. 電子ピアノと生ピアノのレンタルを併用
自宅では電子ピアノを使用しつつ、生ピアノのレンタルサービスを定期的に利用する方法もあります。最近は月単位でピアノをレンタルできるサービスも増えており、発表会前の一定期間だけ生ピアノを借りるなどの柔軟な対応が可能です。
3. 電子ピアノの特性を理解した上での効果的な利用
電子ピアノの限界を理解しつつ、その特性を最大限に活かす方法を工夫することも重要です。例えば、基礎練習や譜読みは電子ピアノで行い、表現力を磨く練習は教室や練習室の生ピアノを利用するなど、目的に応じた使い分けを行うことで、限られた環境でも効果的に上達することができます。
まとめ:電子ピアノでもうまくなるために
6年間電子ピアノを使用してきた経験と、電子ピアノを持つ生徒さんを指導してきた経験から、「電子ピアノでもうまくなれるか?」という問いに対する答えは「はい、うまくなれます」です。ただし、いくつかの重要なポイントを押さえることが必要です。
最も重要なのは、電子ピアノと生ピアノの違いを理解した上で、それぞれの特性を活かした練習方法を工夫することです。初級から中級レベルであれば、適切な電子ピアノと正しい練習方法で十分に上達することが可能です。
上級レベルになると、電子ピアノだけでは表現力や繊細なタッチコントロールの習得に限界を感じることもありますが、定期的に生ピアノに触れる機会を作り、両方の楽器の特性を理解することで、その差を最小限に抑えることができます。
最終的には、ピアノを楽しむ気持ちが最も大切です。どんな楽器であっても、音楽を楽しみ、自分の表現したいことを追求する姿勢があれば、必ず上達します。電子ピアノでも生ピアノでも、まずは毎日触れることが上達の第一歩なのです。
© 2025 かなくぼピアノ教室 All Rights Reserved.