大人のピアノ、なぜ曲が仕上がらない?「通し練習」をやめて始める正しい練習方法

大人のピアノ、なぜ曲が仕上がらない?「通し練習」をやめて始める正しい練習方法(KANAKUBO PIANO SCHOOL ブログアイキャッチ画像)

限られた時間のなかで、せっかく練習しているのにいつまで経っても曲が仕上がらないと感じていませんか?

仕事や家事の合間に、なんとか確保した30分。最初から最後まで通して弾いて、つかえて、止まって、また頭から弾き直す。そうして1曲とにらめっこしているうちに、満足に弾けないまま時間切れになる…。大人がピアノを練習するとき、しばしばこういった状態に陥って消耗してしまいます。

結論から申し上げます。練習の初期段階での「通し練習」は、ほとんど意味がありません。むしろ逆効果になることさえあります。

今日は、時間が限られている大人だからこそ知っておきたい、1曲を確実に仕上げるための練習方法と、その道筋を、私の経験とともにお話しします。

目次

大人の練習を消耗させる「通し練習」という罠

多くの学習者が、練習とは最初から最後まで弾くことだ、と思っています。通して弾けると「練習した」という実感が得られますし、前に進んでいる感覚があるからです。

しかし、ここに落とし穴があります。まだ弾けていない段階で通し練習を繰り返すと、止まりやすい場所を「止まる癖」ごと身体に覚え込ませてしまうのです。つかえる箇所をつかえたまま、何十回も通る。これは、間違った道順を何度も歩いて、その道を覚えてしまうのと同じことです。せっかく時間をかけても、ただ「通せるようになるだけ」で、肝心の中身は磨かれていきません。努力が、空回りしてしまうのです。

そしてもう一つ、もっと本質的な理由があります。通し練習では、音楽の「微細な瞬間」に耳が届かないのです。これは、次のセクションでお話いたしましょう。

大人こそ知ってほしい「音楽は瞬間の積み重ね」という事実

音楽は、瞬間の積み重ねでできています。

一つひとつの音の鳴り始め、響きの長さ、次の音へのつながり方。その微細な瞬間が連なって、はじめて音楽になります。一つひとつの瞬間を大切にできなければ、音楽そのものが成り立ちません。

ところが通し練習をしているとき、私たちの意識は「次、次、次…」と先へ先へと流れていきます。今鳴っているこの音がどんな響きなのか、立ち止まって聴く余裕がありません。聴覚が、瞬間に届かないのです。

私はかつてオーケストラで打楽器を担当したことがあります。オーケストラの音づくりは、全員でいきなり通して合わせることから始まるわけではありません。弦は弦で、管は管で、細部を徹底的に磨いてから合わさります。一音の出し方、消え際のそろえ方。その積み重ねがあって、最後に全体が一つの音楽になる。とりわけティンパニやシンバルの一打は、ごまかしがききません。その一音の鳴り方、減衰の仕方、周りの音への溶け込み方が、すべて聴かれてしまいます。ピアノも同じです。微細な瞬間を磨く営みこそが、本当の意味での練習なのだと私は思っています。

大人が1曲を仕上げられないのは「量」ではなく「仕上げ方」

1曲を最後まで仕上げられない大人ほど、実は練習量が足りないのではありません。つまずいているのは「仕上げ方」、つまり工程のほうです。

これは少し意外に思われるかもしれません。「もっと練習時間が取れれば…」と多くの方が思っています。しかし本当の課題は、限られた時間をどう使うかという道順のほうにあります。曲を完成させるには、どんな曲にも通じる明確な工程があるのです。ここからは、その順番を具体的にお伝えします。

工程1:指使いを早い段階で固定する

皆さんは、指使いをいつ決めていますか?弾きながら毎回その場で指を選んでいませんか?

これは、つまずきの大きな原因です。指使いが定まらないと、同じ場所を弾くたびに違う指で弾くことになり、いつまでも身体に入りません。毎日ちがうルートで会社に向かっていたら、いつまでも道に迷い続けますよね。同じ道を繰り返すからこそ、考えなくても身体が動くようになる。

指使いも同じです。曲を読み始めた早い段階で指使いを決めて、楽譜に書き込んで固定する。これだけで、仕上がりの速さが大きく変わります。

工程2:全体の構造を分析しておく

次に、曲全体の組み立てを把握します。

この曲はいくつのまとまりでできているか?同じフレーズが繰り返される箇所はどこか?似ているけれど少し違う箇所はどこか?

私はこれらをいつも地図のように整理します。構造が見えていれば、繰り返しの部分は一度の練習を使い回せますし、「似て非なる箇所」を取り違えるミスも防げます。やみくもに頭から弾くより、はるかに効率的です。

工程3:部分練習で音色を磨く

ここが心臓部です。

曲を小さなまとまりに切り分けて、一区切りずつ取り出して練習します。いわゆる部分練習です。このとき大切にしてほしいのが、指を速く動かすことではなく「音を聴いて仕上げる」という意識です。私はこれを音色ファーストと呼んでいます。

順番が大切です。どんな音が鳴ってほしいかを先に思い描き、その音が出るように手を扱う。指は、聴きたい音に向かってあとからついてくる、という順番です。

逆に、ただ指を動かした結果として音が出ている状態では、いつまでも音はよくなりません。たとえば、歌うように弾きたいフレーズなら、まず頭の中で歌ってみる。その歌のとおりに音が出ているか、一音ずつ聴く。出ていなければ、触れ方を変えてみる。この往復こそが、部分練習の中身です。立ち止まって耳で確かめられるのは、部分練習だからこそできること。通し練習では決して得られない時間です。

工程4:最後に、はじめて通す

各部分が一つずつ仕上がってきたら、いよいよそれをつないでいきます。通し練習は、ここではじめて意味を持ちます。磨かれた部分どうしを並べて、つなぎ目を整える。土台となる部分ができているので、通したときの完成度がまるで違います。「通し練習をやめましょう」ではなく「通し練習を最後に回しましょう」というのが、正しい言い方かもしれません。

もう一つ大事な考え方としては、通し練習は確認行為であるということです。通し”練習”とは名乗ってはいるものの、実質的にこれが練習かと言われると、正直微妙なところです。

確認行為であるとすると、これだけ行っていても形あるものは仕上がりません。真の意味で練習といえるものは、工程1~3までの一連の行為であるといえるでしょう。

限られた時間と完璧主義を、大人は逆手に取れる

大人がピアノを習うとき、不利だと思われがちな二つの条件があります。それは、

  1. 時間が限られていること
  2. 完璧主義になりがちなこと

でも、この工程を知っていれば、その二つはむしろ味方になります。

時間が限られているからこそ、やみくもな通し練習で消耗するわけにはいきません。指使いを固定し、構造を理解し、苦手な部分だけを取り出して磨く。この手順は、短い練習時間を一滴も無駄にしない積み重ねです。30分しかなくても、今日はこの4小節だけ、と決めて磨けば、その4小節は確実に皆さんのものになります。

完璧主義も同じです。一気に全部を完璧にしようとすると、通し練習で何度もつまずいて自分を責めてしまいます。けれど、小さな部分を一つずつ仕上げていく工程なら、完璧主義は「丁寧さ」という強みに変わります。量で押し切るのではなく、一点を丁寧に磨く方向へ向けてあげる。一つの瞬間に丁寧に向き合える人ほど、この練習法と相性がいいのです。

大人のピアノは、才能ではなく道筋で仕上がる

ピアノを大人になってから始めた方、あるいは久しぶりに再開した方から、「自分には才能がないから」という言葉をよく聞きます。でも、1曲を仕上げる力は才能ではありません。指使いを早く決める、構造を整理する、部分練習で音色を磨く、最後に通す。この段取りを踏めるかどうか、ただそれだけです。順番が分かっていれば、誰でも一歩ずつ前に進めます。

同じ「通す」という行為でも、初期にやれば逆効果、最後にやれば立派な仕上げ・確認行為になります。同じ道具も、使う順番を間違えれば役に立たず、正しい場所で使えば力を発揮する。練習も、まったく同じなのです。

最後に大切なことを一つ。それは頻度です。一度に長く弾くより、短くてもこまめに鍵盤に触れるほうが、はるかに身につきます。限られた時間を、通し練習で使い切ってしまわないこと。今日お伝えした道筋を、ぜひ次の練習から一つだけでも試してみてください。

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この記事を書いた人

大人のピアノ教室「かなくぼピアノ教室」講師。理系大学院を卒業→就職→退職してピアノ講師に。社会人経験を生かして、大人の方向けにピアノ教室を運営しています。

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